『狂犬病』予防接種について

子犬1

なぜ必要なの?

「狂犬病」と「狂犬病予防法」

「狂犬病」は狂犬病ウイルスにより引き起こされる、神経症状を伴う致死性の高い、非常に怖い「人畜共通感染症」です。
狂犬病ウイルスに感染して発症した動物の唾液中にウイルスが含まれており、多くの場合これらの動物に噛まれる事で感染します。感染しても直ぐに発症するわけではなく、ヒトの場合は通常1~3ヶ月間(もっと長い例も報告されています)、犬の場合は2週間程度の潜伏期間の後、狂犬病を発症します。症状は、まず音や光に過敏になり、狂騒状態となり、動物では目の前にあるもの何にでも噛み付くようになります。やがて全身麻痺を起こし、昏睡状態となって死亡します。発症した場合、犬やヒトでの死亡率は約100%です。

「狂犬病」と言う名前のため、「犬からうつる病気」と思われがちですが、実際には全ての哺乳類に感染します。牛や馬などの草食動物にも感染しますし、リスやアライグマなどの野生動物や、ネズミなどのげっ歯類からヒトに感染することもあります。したがって、「病名」としてはあまり適切なネーミングでは無いと、個人的には思っています。「狂犬病予防法」では、「犬の所有者は、犬を取得した日(生後90日以内の犬を取得した場合は、生後90日を経過した日)から30日以内に、その犬の所在地を管轄する市区町村に登録の申請をし、鑑札の交付を受けなければならない」と定められています。狂犬病予防注射についても、「室内犬を含む生後91日以上の犬を所有する者は、毎年1回、狂犬病予防注射を受け、注射済票の交付を受けなければならない」と定められています。そして鑑札や注射済票は犬に付けておかなければならないことになっています。きちんと法律を守って登録をしている人は、毎年春になると管轄の市区町村から狂犬病予防注射のお知らせの葉書が送られて来ます。

私たち獣医師は、「狂犬病に感染した犬」を治療することが出来るでしょうか?答えは「No」です。獣医師は、狂犬病が疑われる犬やその他の動物を「治療する」ことは、法律で禁じられています。もちろん発症したら致死率100%なので実際に「治療不可能」なのですが、万が一「狂犬病の発症」と思われる犬(その他の動物)を診察した場合には、狂犬病予防法および家畜伝染病予防法に従い、ヒトや周囲へのウイルスの蔓延を防止するために「患畜」を隔離し、保健所または管轄の都道府県知事に届け出なければならない、と定められています。
現在、日本国内では狂犬病の発生がないので、私たちも「狂犬病は無いもの」として日常の診療をしていますが、もしも日本のどこかで狂犬病が発生したという状況で、目の前に「狂犬病を疑わせるような神経症状を示す犬」が連れてこられた場合、そしてその犬が「狂犬病の予防注射を受けていない」のが明らかな場合、私たち獣医師は、周辺住民の命と生活を守るため、そして周辺地域の沢山の動物達の生命を守るため、獣医師の良心と法律に従ってその犬を隔離し、届出義務を果たさなければならないのです。もちろん、その犬が狂犬病の予防接種を受けていれば、このようなことにはなりませんが・・・。

区・市役所に「飼犬の登録」をしている人は、毎年3月になると「狂犬病の予防注射のお知らせ」の葉書が送られてくる事と思います。これは日本では4月の初めが「狂犬病予防週間」として定められているからです。なぜ4月か、と言えばこれは行政の業務の都合であり、獣医学的な理由からではありません。従って、なんらかの都合により4月に狂犬病の予防注射を接種できなかったとしても、他の月に接種すれば全く問題ありません。

なかには毎年9月や12月に接種している、という方もいます。ただしこのような場合には、市や区から「今年度の狂犬病予防接種をまだ受けていません」と言うお知らせが来る場合があります。これは、行政が4月からの年度制を基準にしているため、例えば前年の12月に注射をしていたとしても、「今年度は未接種」と見なされてしまうためです。しかし、きちんと毎年接種しているのならば、何ら問題はありませんのでご安心下さい。